(第16-1号 米国コミュニティバンクのIT戦略)

 銀行業というのは、情報集約的な産業ですから、コンピュータシステムが非常に重要となっています。特に、巨大銀行ともなると、こうしたインフォメーション・テクノロジー(IT)投資に毎年数千億円分ものコストをかけていると見られています。ただし、アメリカの銀行の大部分はコミュニティバンクなどの総資産10億ドル(約1,100億円相当)以下の小さな銀行です。日本の信用金庫の総資産の中間値が約1,800億円ですから、アメリカの銀行の大部分は日本の信用金庫よりもかなり小さいわけです。大銀行ならわかりますが、アメリカの小さな銀行はコンピュータのようなお金のかかる投資の問題をどのように解決しているのでしょうか。

・アウトソーシング 
 米国独立コミュニティ銀行協会のコミュニティバンクを対象にした2002年の調査によりますと、コミュニティバンクの約6割は自行で銀行業務の基幹コンピュータシステムを保有しており、約4割は外部の業者などにアウトソーシングしています。アウトソーシングの場合、日本の信用金庫のように業界で共同のシステムセンターを持っているのではなく、いくつかの民間のコンピュータ運営業者があり、その中から信頼できると思われる業者を各行の判断により選定しています。米国銀行協会などの業界団体もコンピュータの運営業者を会員銀行に斡旋しています。米国には約9,000もの銀行等がありますので、コンピュータ業者としても、アウトソーシングを受けるビジネスが成り立つわけです。

・自行保有
 一方、コンピュータを自行保有しているコミュニティバンクも多くあります。その理由としては、自行で独自のコンピュータを保有した方が、管理がしやすく、柔軟性があるからです。例えば、「毎月第2営業日には前月の顧客取引明細書を取引先企業に届ける」などの独自のサービスを顧客に提供したい場合、自行でシステムを持っていた方がやりやすいといえるでしょう。また、テクノロジーというものは発展するほどコストが低くなる傾向がありますし、米国ではコンピュータ業者同士の競争が激しいため、ソフト・ハードとも比較的安くなっていることもいえるでしょう。実際、テキサス州のあるコミュニティバンクの経営者の方は、「コンピュータは買ってもアウトソーシングでもお金がかかる。それならば、自分で持っていてコントロールした方がよい。」と言っていました。統計をとったわけではありませんが、私が取材をした限りにおいては、NY・シカゴなど北部の銀行はアウトソーシング派、テキサスの銀行は自行保有派が多いように思います。北部は経済的効率性を重視し、テキサスは独立心が強い、などコミュニティバンクといってもその地域により考え方や文化的背景は異なっているようです。


あるコミュニティバンクのコンピュータ(自行保有の場合)

・顧客データベース
 小さなコミュニティバンクというのは、フェイストゥフェイスでお客さんの顔を知った上で取引をしていますが、人間の記憶力にはどうしても限界があります。また、営業担当者がお客さんのことを知っていても、銀行の組織としてその知識が蓄積していなければ、銀行として顧客を理解している、とは言いがたいでしょう。このため、小さなコミュニティバンクでも、顧客データベースシステムの構築に力をいれているところもあります。たとえば、顧客の名前を入れると、その顧客の住所などの属性情報はもちろん、基幹コンピュータと連携して預金や貸出残高などの取引情報、またその顧客との取引の契約書の画像ファイルが簡単に画面に出るようになっています。このため、例えば、お客さんの誕生日にバースデーカードを送付する、特定の地区の顧客との取引を深めるための営業計画を立てる、なども簡単にできるようになっています。

・テクノロジーは小銀行にも味方 
 コンピュータのようなテクノロジーは、冒頭に述べましたようにお金がかかることから、大銀行の味方だと当初は考えられていました。ただし、テクノロジーは発展とともに飛躍的にコストが下がる傾向があります。1年前は最高のレベルのパソコンが、今では中くらいでバーゲンセールの対象、ということは日本でもよく起きていると思います。アメリカのコミュニティバンクは、そうした後発のメリットを生かし、大銀行よりは多少の遅れはあるものの、低コストでほぼ近いレベルのサービスの提供ができるようになっている銀行が多くあるようです。また、アウトソーシング方式により規模のメリットを享受することも可能となります。フェイストゥ・フェイスのハイタッチと、ITのハイテクのコラボレーション(協業)により、コミュニティバンキングを一層強力なものにすることができるわけです。

(文責:ニューヨーク駐在 Senior Analyst 青木 武)

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取材協力:独立コミュニティ銀行協会、サミット銀行、ノースダラス銀行、シチズン銀行ほか

(文中意見にわたる部分は筆者の個人的意見であり、必ずしも信金中央金庫の見解を反映させたものではありません。本レポートは、掲載時点における情報提供を目的としています。したがって施策実施・投資等についてはご自身の判断によってください。また、本稿は、執筆者が信頼できると考える各種データ等に基づき作成していますが、当研究所が正確性および完全性を保証するものではありません。なお、記述されている予測または執筆者の見解は、予告なしに変更することがありますのでご注意ください。